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貴重な文化財を現代に受け継ぐ「上越名家」

 上越市には江戸時代から続く家系の当主が現在も守っている、4つの歴史ある名家の邸宅があります。「NPO法人上越名家ネットワーク」はそれらを後世に残すための活動をしています。名家の一斉公開や今後の上越名家の展望について、事務局の小林淳さんと2名の現当主に話を聞きました。

天井の太くしっかりとした梁(はり)は圧巻です

上越に現存する名家
 上越市内には江戸時代の大庄屋・庄屋クラスの旧家の邸宅が個人所有のまま数多く残っており、国の有形文化財に登録された邸宅もあります。しかしその認知度は低く、また地域にとって貴重な文化財であるという認識がされてきませんでした。さらに維持管理費の財政難などにより、必要な修繕がされていない邸宅もありました。中には長い間放置されたために倒壊してしまい、解体せざるを得なかった邸宅もあったといいます。
 この状況を打開する第一歩として、多くの人に文化財としての重要性を知ってもらうため、上越市に点在する歴史的旧家が歩調を合わせて、一斉に一般公開する活動が2017年11月より始まりました。この企画の立案者は「庭屋一如(ていおくいちにょ)研究会」主宰の藤井哲郎さん。研究会は和風建築と日本庭園を活用して地域活性化を目指すイベントなどによって、日本文化への理解を深める活動を行っています。
 一斉公開は新型コロナウイルスの影響により開催できない年もありましたが、年に2~3回のペースで内容を変えながら現在まで継続して実施されています。

過去に一斉公開と同時開催されたマルシェにはたくさんの人が訪れました

ネットワークをつなぎ名家を支える
 前述の一斉公開を安定して行うことや、市内に現存する歴史的旧家として知られている「白田邸」「瀧本邸」「林富永邸」「保阪邸」の4邸を後世に継承していくための保存活動を支援し、利活用して地域を活性化させることを目的として「上越名家ネットワーク」が2020年に発足。翌年6月には特定非営利活動法人が設立され、各邸の当主やその親族などがメンバーとして所属しています。
 同団体は各邸の維持管理や保存活動はもちろん、さまざまな事業を通して文化財としての価値を広く知ってもらうことで地域活性化につながる取り組みを行い、地域社会に大きく貢献することを目標に活動しています。一斉公開もその一つで、名家の維持保存費用の一部をまかなうための役割もあります。また各邸ごとに保存会があり、一般公開前の清掃活動や当日の運営補助などを行い、そのサポートの役割も担っています。

保阪邸の蔵はギャラリーとして公開しています

地域の宝を後世へ残すために
 上越地域での認知度アップへの取り組みの一つとして、林富永邸では週末限定でカフェをオープン。テレビ番組で紹介され県内外から注目を集めています。保阪邸では一般公開に合わせて蔵をギャラリーとして開放し、収集された器などの調度品を展示しています。ほかにもウェディングフォトなどの写真撮影やレンタルスペースとしての利用もできるそう(要相談)。「過去には小学校の社会科見学も実施しました。ほかにも活用方法があればぜひ意見をいただきたいです」とNPO法人上越名家ネットワーク事務局の小林さんは話します。
 白田家当主の白田美和子さんは「一般公開しているからにはもっとたくさんの人に上越名家について知ってもらいたい」、林富永家当主の富永正浩さんは「これから後継者問題などさまざまな課題が出てくると思いますが、貴重な文化財を少しでも永く後世に残していきたい」と思いを話してくれました。小林さんは「今後は行政との関わりが重要になると考えています。当主の意向も確認しつつ、上越名家ネットワークと各邸の保存会で協力して活動していきたい」と意気込んでいます。
 11月11日(土)・12日(日)の一斉公開では、通常の一般公開のほかに各邸で催しものも実施されます。貴重な文化財とともに、紅葉の庭園や秋ならではの風情を楽しんでみては。

【歴史のいとを未来につむぐ 上越名家一斉公開(秋の公開)】
●11/11(土)12(日)
●10:00~15:00
●料金各邸500円(維持協力金として)
※高校生以下無料
※歴史的建造物保護の観点から靴下の着用必須
※貴重な文化財を傷めないため、立入制限区域内に入らない、建具や展示物に触れないなどのルール厳守をお願いします

■白田邸(シラタテイ)
明治天皇御小座敷「玉座の間」を移築。豪華なふすま絵や欄間も見どころ。庭を一望できる入側は柱の間が5間あり、全国で10例も残っていない貴重な造りといわれています。
[住]上越市頸城区森本703

白田邸











■瀧本邸(タキモトテイ)
宮大工による総ヒノキの書院造の離れ「懐徳亭(かいとくてい)」や、上越地域を代表する池泉(ちせん)回遊式庭園を鑑賞できます。広く静寂なコケ庭には茶室もあります。
[住]上越市頸城区百間町711

瀧本邸











■林富永邸(ハヤシトミナガテイ)
明治16年に建てられた、かやぶき屋根とコケ庭が特徴の邸宅。主屋は豪快なケヤキの梁組みで構成された農民仕様部分と、格式高い書院造の武家仕様部分に分けられています。
[住]上越市三和区神田2245

林富永邸











■保阪邸(ホサカテイ)
離れの寺院風玄関と主屋の数奇屋(すきや)造が対照的な豪農の邸宅。内部には繊細な装飾が数多く施されています。美術品収集家であった保阪家の持ちものも見どころです。
[住]上越市戸野目488

保阪邸