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〈上越市児童給食アレルギー事故〉誤食事故防ぐために 田中泰樹医師に聞く 「致命的になり得た」対応に問題点

食物アレルギーについて説明する田中医師(10日、すこやかアレルギークリニック)
田中医師が講師を務め、教員らへ食物アレルギーの緊急時対応などを伝えた(15日、教育プラザ)

 上越市の市立小学校で9月5日、乳・乳製品にアレルギーのある児童1人が、アレルギー食材を含む給食を食べて症状を発症し、一時入院する事案が発生。本事案を巡り、学校の対応、市教育委員会の情報共有・発信などに不備があったことが明らかになった。児童の主治医で「すこやかアレルギークリニック」(上越市藤野新田)の田中泰樹医師(58)から食物アレルギーについて、また本事案の問題点について聞いた。

◇食物アレルギーとは

 食物アレルギーとは、特定の食材を食べることで免疫が過剰反応を起こす疾患。卵、乳、果実など、患者によって原因となる食材は異なり、これ以上食べると症状が表れる境界値「いき値」がある。症状はじんましんなどの皮膚症状、せきなどの呼吸器症状が主だが、いき値を大きく超えて食材を食べた場合などは複数の症状が表れる「アナフィラキシー」を発症する。

 「アナフィラキシーショック」は生命に関わる。血管の拡張、血管内の血液が体に漏出する「血管透過性亢進(こうしん)」などが起こり、全身への酸素供給が滞ることで短時間に意識の低下、心肺機能の停止を引き起こすという。田中医師は「全身で心筋梗塞が起こるイメージかもしれない」と話す。

◇取るべき対応「全て」行わず

 田中医師は本事案でアレルギー症状を発症した児童と保護者から経過を聞き取り、学校の対応を検証した。

 これによると、児童は給食中に腹痛を訴え、トイレへ一人で歩いて移動。この時点で児童は「ふらふらして気持ちが悪い」と感じ、意識の低下が疑われる状況だった。教員は児童に声をかけずトイレに10分間放置。この後、児童は様子を見に来た教員に大丈夫と答え一人で教室に戻るが、教員からは顔の赤みやふらふらしている状態に気付いてもらえなかったという。

 田中さんは「脳に血液を送り意識を保つため、体を横たえる『ショック体位』を取るべきだった。トイレで意識を失ってもおかしくなかった」と話す。

 倒れそうになる児童を横にし、教員が「エピペン(エピネフリン)」を注射。発症からおよそ18分を要したという。これは医師の治療を受けるまでに本人や周囲が行う応急処置で、血管収縮や心拍数増加などの作用により症状の進行が緩和されるもの。田中医師によると発症から14分後に注射して亡くなった例があるとし、本事案が「致命的になり得た」と強調する。

 田中医師は学校だけでなく、市教育委員会の対応にも不信感を示す。市教委の発表によると、児童が食べた食品には原材料に児童のアレルギー食材である乳・乳製品が含まれていたが、栄養教職員が事前の配合成分表の取り寄せ確認を怠るなど、ずさんな対応がなされたという。また学校から最初に提出された経過報告には、教員がトイレの様子を見に行き「児童と一緒に教室に戻ってくる」など、児童や保護者の説明と異なる記載があったという。

 田中医師は児童が食べたアレルギー食材の量を概算。この結果、児童の「いき値」の2000倍近い量であったという。本事案について田中医師は、「誤食させないことの徹底」「できるだけ早いショック体位」「エピペンを早く打つ」など、取るべき対応が「全て」できていなかったと強く糾弾する。

◇教員ら対象に緊急対応研修

 今回の事案を受け市教委は15日、田中医師を講師に招き「食物アレルギーに係る緊急時の対応研修会」を開いた。市内のエピペンが処方されている児童生徒が在籍する小中学校30校、オンラインで全ての小中学校および一部の保育園、認定こども園が参加。田中医師は教員が取るべき緊急時対応や練習用のエピペンを用いた注射方法などを伝え、「上越市から誤食事故をなくすため、分からないことがあれば相談してほしい」と呼びかけた。

田中医師が講師を務め、教員らへ食物アレルギーの緊急時対応などを伝えた(15日、教育プラザ)